夫の扶養の範囲で働くのはお得か?

子どもが小さいうちは専業主婦か、働くとしても夫の扶養の範囲でパートなどの非正規雇用で家庭や子どもを優先させるという女性が日本の場合は多いようです。


「扶養」という身分は一面において、なかなかお得なのです。


健康保険の被扶養家族になれば保険料の支払いは一切なく、窓口での自己負担分だけです。夫が保険料を支払ってくれている…のではなく、健康保険の被保険者全員で負担しています。


国民年金の場合、公務員や会社員の配偶者はやはり保険料の支払いなしに、もし仮に40年間被扶養家族であれば、毎月17,000円近くを払い続けてきた人と同じ額の国民基礎年金が支給されます。これもやはり、夫などの配偶者が年金保険料を支払っているのではなく、厚生年金保険に加入している被保険者みんなで負担しているのです。


専業主婦や夫の扶養の範囲でのパート勤務などは、こういった制度面からみると合理的です。


ただ、今の時代は専業主婦の方はとても少数で、たいていの既婚女性は働いています。でも女性労働者の半数はパートなどの非正規雇用です。


子どもが小さいうちはパートで、大きくなったらフルタイムの正社員で…と思っていても、家事や育児の負担が女性に偏っていて、また正社員の仕事自体が少なかったり、正社員=残業ありだったりして、パートなどから抜け出せない女性が多いのです。


夫の扶養に入っていれば医療保険も年金も恩恵があるのだし悪くはない、無理にフルタイムで働く必要はないのでは?このように考える女性も少なくないと思われます。


男性と女性の賃金格差はいまだに大きいですし、残業ありきの職場も多いですから。なにより、パート=時間通り、正社員=残業あり(しかも残業代が支払われないことも)といった考えが根強く残っていますから。


私も全面賛成とは言えないまでも、扶養という働き方も選択肢のひとつ、と半ば受け入れていたところがありました。


でも、ある研究報告、事例報告を知って、「扶養」という、一見合理的でお得な生き方のリスクを知ることになりました。


先月6月29日に、内閣府府男女共同参画局と労働政策研究・研修機構JILPTの共同開催で、「新型コロナによる女性雇用、生活への影響、支援のあり方」という報告会・パネルディスカッションがありました。
そこでのキーワードは「シーセッション She cession 女性不況」でした。自粛や保育園、小学校の休園・休校により、女性が雇用を失ってしまい、男性以上に苦境に陥っているという研究報告と事例報告でした。


私がけっこう衝撃を受けたのは、無料電話相談でもっとも多かった年代が50代ということでした。50代の女性はバブルの時代に就職して結婚・出産で退職、その後は専業主婦又は、非正規で働いてきた方が多いのです。子どもはすでに成人しており、夫との二人暮らしか、成人した子どもと同居して主婦業をしていると思われます。


コロナ前まではおそらくわりと自由に生活を満喫していたのではないかと思うのです。夫はまだ年功賃金の名残でそれなりのお給料をもらっているし、仕事で家を空けることも多いので、自由になる時間もあり、お金もパート収入などでおこづかいぐらいはありました。


でもコロナによって、自分のパート仕事も減り(なくなり)、夫もテレワークや、休業が多くて家にいたりで、徐々に経済的に苦しくなり、精神的にもツラくなっていったようです。


夫の扶養から外れたら生きていけないので、夫からの理不尽な態度に耐えながら増加する家事負担に耐え、ときに暴力に耐え、50歳を過ぎると途端に仕事の選択肢が減ることに加え、コロナでさらに仕事が減り、医療・福祉以外に働き口がない状況になっています。


「扶養」はお得ですが、いったんコロナのような状況になると自分を拘束するものとなってしまいます。扶養のお得に慣れると、フルタイムで働いて社会保険や税金を支払うということがとても損に感じられてしまいます。そこから抜け出すことが容易ではありません。


シングルマザーの窮状を目の当たりにするとなおのこと、扶養に後ろ髪が引かれます。


でも扶養の安心は扶養者からの理不尽な態度に耐えることで得られるけっこう不合理なものです。


「私は扶養の範囲で働きます」というのは、平時においては権利の主張で勇ましいのですが(本来は違うと思いますが)、コロナ禍においては不安定でみじめな生き方であることが露呈しました。


扶養とは保護されること、未成年の子どもや、事情があって一人では生きられない人のためにある制度です。


扶養の範囲で働くことが本当に合理的でお得なことか、コロナ不況の今考えてみたいことです。


「新型コロナによる女性雇用、生活への影響、支援のあり方」については、ブログ:社労士みょうみょうのやんわり鉄拳で詳しく書いています。お読みいただけると嬉しいです。



社労士myoumyoう

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